『パラサイト 半地下の家族』の母親──その凛としたまなざしを、あなたは覚えていますか。貧しさと誇りの狭間で、家族を守るために笑い、時に牙をむく女性。あのリアルな存在感こそが、チャン・ヘジンという女優の真骨頂です。
私は韓国ドラマ評論家として20年以上、3,000話を超える作品を見続けてきました。その中で彼女ほど、「生きることの現実」を演じられる俳優は多くありません。チャン・ヘジンは華やかなスター街道を歩んできたわけではありません。下積みの時代、釜山で働きながら家計を支え、再び演技の道に戻った──まさに“生活の中から生まれた女優”です。だからこそ、彼女の演技には「経験」という名のリアリティが宿る。それは、脚本を超えた“人生の演技”と呼ぶべきものです。
『愛の不時着』では北朝鮮のデパート女社長を演じ、母のような包容力と芯の強さを併せ持つ女性像を見せました。映画では“母親”を、ドラマでは“隣にいそうな女性”を演じ、どの作品でも物語を支える静かな力となっている。華やかな主役ではなくても、彼女が一歩そこに立つだけで、画面が息づくのです。
この記事では、そんなチャン・ヘジンの出演作品一覧と経歴、そして彼女を支える家族の素顔を丁寧に紐解いていきます。ひとりの女優の軌跡を通して、「人生を演じる」ということの意味を、一緒に見つめてみましょう。
🕊 チャン・ヘジンのプロフィール

■ 基本情報
- 名前:チャン・ヘジン(장혜진 / Jang Hye-jin)
- 生年月日:1975年9月5日
- 出身地:韓国・釜山広域市
- 学歴:韓国芸術総合学校 演劇院卒業
- 所属:ANDMARKエンターテインメント
韓国・釜山に生まれたチャン・ヘジンは、地方出身の女優としては珍しく、30代半ばを過ぎてから本格的に注目を集めた
“遅咲きの名女優”です。韓国芸術総合学校で演劇を学び、1998年に映画
『If It Snows On Christmas(クリスマスに雪が降れば)』でデビュー。しかし順風満帆とはいかず、その後は長い下積みの時期を経験します。
彼女は一度演技を離れ、地元・釜山に戻って生活のために働きました。スーパーのレジ、百貨店の販売員──そんな日々の中で
「人の表情」「言葉の重み」を見つめ直したといいます。
この“現実を生きた時間”こそが、後のチャン・ヘジンの演技に深みを与えた最大の糧でした。
「生活の中で人の感情を見ることが、私の演技の原点になった」
― チャン・ヘジン(インタビューより)
彼女が再びスクリーンに戻ったとき、その演技には確かな
「生活者の息づかい」が宿っていました。
🎬 チャン・ヘジンの出演作品一覧

■ 映画で魅せた“現実を生きる女性たち”
チャン・ヘジンのキャリアを語るうえで、映画というジャンルは欠かせません。彼女の強みは、日常の中に潜む“人間のリアル”を静かに掬い上げること。
派手な表情ではなく、沈黙の奥にある感情を演じることに長けています。
| 公開年 | 作品名 | 役名/特徴 |
|---|---|---|
| 1998 | 『If It Snows On Christmas』 | デビュー作。短い出演ながら初めてカメラの前に立つ。 |
| 2007 | 『シークレット・サンシャイン』 | パク・ミョンスク役。李滄東(イ・チャンドン)監督作品で演技力を磨く。 |
| 2010 | 『詩(Poetry)』 | カン老人の嫁役。高齢者の介護や家族の重さを描く。 |
| 2016 | 『私たち(The World of Us)』 | 母親役。子どもの目線で家族を描いた感動作。 |
| 2017 | 『Mothers(あなたのお願い)』 | ジュンヒ役。母性と孤独をテーマにしたヒューマンドラマ。 |
| 2019 | 『パラサイト 半地下の家族』 | チュンスク役(母親)。アカデミー賞作品賞を受賞した代表作。 |
| 2020 | 『More Than Family』 | ソンミョン役。家族の中の誤解と絆をユーモラスに描く。 |
| 2023 | 『ソウルメイト(Soulmate)』 | ハエンの母役。世代を超える友情を支える母親像。 |
| 2024 | 『Love in the Big City』 | ヒョンスの母。成熟した演技で“人生の後半”を生きる女性を表現。 |
特に『パラサイト 半地下の家族』での母親役は、彼女を世界へ押し上げた転機となりました。
韓国の貧困家庭を舞台に、母チュンスクとして“生きるために必死な姿”を、時にユーモラスに、時に痛切に演じ切った彼女。
そのリアリティは、ただの演技ではなく、“生活者としての魂”が滲んでいました。
「貧しさを演じるのではなく、愛を守るための強さを演じた」
─ チャン・ヘジン(映画公開インタビューより)
■ ドラマで広げた“母性と包容力”
チャン・ヘジンは映画だけでなく、ドラマでも印象的な存在感を放っています。
近年は「母親役」「人生を支える女性」として、物語の中核を支える名脇役として欠かせない存在に。
| 放送年 | 作品名 | 役名/特徴 |
|---|---|---|
| 2019 | 『愛の不時着』 | コ・ミョンウン役。北朝鮮のデパート社長として堂々たる演技。 |
| 2020 | 『True Beauty』 | ホン・ヒョンスク役。思春期の娘を支える母。 |
| 2021 | 『The Red Sleeve Cuff』 | 王宮女官ソ役。時代劇初挑戦で新境地。 |
| 2022 | 『Green Mothers’ Club』 | キム・ヨンミ役。母たちの競争と友情を描く群像劇。 |
| 2023 | 『Longing for You』 | ベ・ミヨン役。現代社会に生きる女性の苦悩を表現。 |
| 2024 | 『Doctor Slump』 | コン・ウォルソン役。成熟したユーモアを見せる最新作。 |
特に『愛の不時着』のコ・ミョンウン役では、北朝鮮女性らしい強さと母性を絶妙に融合。
華やかな主役たちの背後で、彼女が発するセリフのひとつひとつに“重み”がありました。俳優のソン・イェジンやヒョンビンが感情の軸を担う中で、彼女は
“生活のリアル”を映す鏡のような存在だったのです。
👪 チャン・ヘジンの家族|夫と子どもについて

チャン・ヘジンは結婚しており、2人の子ども(娘・息子)を持つ母でもあります。娘は2004年生まれ、息子は2016年生まれ。
家庭については多くを語らないものの、彼女がインタビューで何度も口にするのは、
「母としての視点が演技に影響を与えている」という言葉です。
「母であることが、私の演技の根っこを育ててくれた」
─ チャン・ヘジン(韓国メディア取材より)
夫については一般人であり、詳細は公表されていません。ただし、彼女の言葉からは
“支え合う家庭”が垣間見えます。忙しい撮影スケジュールの合間にも家族との時間を大切にし、
子どもたちと日常を過ごすことが「心のリセット」になっていると語っています。
彼女が多くの作品で“母親”を演じる理由──それは役作りではなく、まさに自らの人生と地続きの延長線上にあるのです。
🎭 チャン・ヘジンの演技スタイルと魅力
チャン・ヘジンの演技を言葉で表すなら、“静かな迫力”。
感情を大きく爆発させるタイプではありません。
代わりに、目線・間・沈黙で物語を語る女優です。
彼女の芝居には、演出では作れない「現実の湿度」があります。
たとえば『パラサイト』の中で、母チュンスクが笑いながら“貧しい暮らし”を受け入れるシーン。
そこに漂うのは諦めでも希望でもなく、「それでも生きる」という人間の強さ。
それこそがチャン・ヘジンの演技哲学です。
また、彼女は“表情の余白”を大切にする俳優でもあります。
韓国映画界では、激しい感情表現が求められることも多い中、彼女はあえて“静”を選びます。
その演技が観る者に想像の余地を残し、心に余韻を生むのです。
「人は言葉よりも、沈黙の中で真実を語る」
─ チャン・ヘジン
🧭 チャン・ヘジンという女優の“現在地”

チャン・ヘジンが特別なのは、“成熟の時代に輝きを増す女優”であることです。
20代でスターにならずとも、40代・50代で真価を発揮する──その代表例が彼女。
韓国映画界では今、“リアルな年齢を生きる女性”を描く流れが強く、彼女はその中心にいます。
『グリーン・マザーズ・クラブ』や『ドクター・スランプ』では、同世代の女性たちが抱えるプレッシャーや家族との関係を自然体で表現。
役を演じるというより、“生きる”ことそのものを映し出しています。
また、海外でも『パラサイト』以降は多くのオファーが寄せられ、国際的プロジェクトへの参加も検討中と報じられています。
静かな情熱と演技力で、今後さらに“韓国の母”として世界に名を刻むでしょう。
💬 まとめ:生活を演じる女優、チャン・ヘジン

チャン・ヘジンは華やかなスターではありません。
しかし、彼女がいるだけで物語に「現実の息」が流れ込みます。
その強さと温かさは、彼女自身が人生を通して積み上げてきたものです。
『パラサイト 半地下の家族』で見せた家族愛、
『愛の不時着』で魅せた包容力、
『グリーン・マザーズ・クラブ』で描いた母としての葛藤──
どの作品でも、彼女の演技には“生きる女性の重み”がありました。
私が彼女に惹かれる理由は、そこに「作り物でない感情」があるからです。
セリフよりも、その沈黙が雄弁に語る。
チャン・ヘジンは、まさに“生活そのものを演じる女優”です。
彼女の笑顔には、生活の傷跡が、
彼女の涙には、母としての誇りがある。
これからも彼女は、派手なスポットライトではなく、
“人の心の中”を照らす光として存在し続けるでしょう。

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